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頭の中で鍵盤を叩いていた奏司が目を開けた。目の前で驚きの表情で立っている豊が視界に入って、その視線の方へ顔を向ける。
「え…」
奏司が顔を上げた時にはもう、綴は奏司の前に立っていた。
豊以上の表情で奏司が綴を見上げる。驚きすぎて立つことも出来ない。それどころか、一瞬息さえ出来なくなって名前を呼ぶことも出来なかった。
動いたのは豊だった。ざわつくクラスメートに「先生は呼ばないで、あの人知り合いだから」と告げながら教室の入り口まで行く。
「忘れ物を…そう、忘れ物を届けに来てくれて！」
苦しい言い訳だろうかとも思ったが、豊はとにかくこの場を守らなければと思った。佐々木も豊につられて一緒に入り口まで移動する。窓際の豊の席を誰もが遠巻きに見ている。
「何の曲聴いてるんだ？」
綴が口を開いた。奏司は慌ててプレーヤーを止めるとイヤホンを取った。
「…え？」
何が起こっているのか全然状況が掴めない。
どうしてここに藤音綴がいる？
白昼夢？
ピアノ弾きすぎた疲労が見せる幻影？
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