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奏司の脳の処理機能が追いつかない。そんな奏司にもう一度綴が聞く。
「何聴いてんだ?」
「…エチュード、Op.10-3、通称『別れの曲』…です」
綴の目が上を向き、横を向いて、最後に首を傾げる。
「久石…」
「ショパンです」
「………」
「………」
綴がギターケースを下ろして近くの机に立て掛ける。そして、
「またショパンかよ!お前ショパンの回しモンか!」
「有名な曲です!聴けば藤音さんも知ってます!」
「…ホントだな?」
「…すみません、藤音さんが知ってるかは分かりません」
漫才の掛け合いでも始まったのかと周りが半笑いで見守る。
綴は近くにあった椅子を自分の方に引き寄せると、どかっと座った。
「つか、嫌なタイトルだな」
綴が静かに言う。
「…綺麗な曲なんですよ?」
奏司が笑う。
ああ、藤音綴だ。
夢じゃない、本物の藤音綴が目の前に居る。
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