20.

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 奏司がじっと綴を見つめる。こんなに間近で見たのはいつ振りだろうか?ここが高校の教室で、綴が無許可で乗り込んできたことも忘れて、奏司は綴の腕を掴んで引き止めたい衝動にかられる。  背中を向けようとした綴に奏司がプレーヤーを差し出す。 「あの、これは」 「貸してやるよ」  綴が奏司のスマホに目を遣る。 「ショパンか俺か、お前の好きな方聴けば?」  綴が口元で笑った。  奏司がプレーヤーを握りしめる。  綴の甘い意地悪。 「じゃあな、キュウリ食っとけよ」  そう言って入り口に向かう。豊が緊張の面持ちで綴を見た。綴は何も言わずに豊の頭をくしゃっと撫でると、来た時と同様、周りの一切を気にせず帰って行った。
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