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「綴はバカなの?」  発が茫然と、そして呆れたように腕を組んで綴を見た。 「失礼な奴だな、前期試験は追試なかったつーの」  大学の多目的ホールでミニアンプをスタンバイする綴に「そういうこと言ってんじゃないよね」と発が入り口付近に出された長机に腰掛けた。 「今日奏司くんに会いに行って、その日のうちにテストってどゆこと?!せめて一週間くらい練習時間あげなさいよ」  綴は窓を閉め遮光カーテンを引っ張る。 「時間ねえじゃんあいつ。ピアノのコンクールあるつってたし」  綴はホール内の倉庫から長机とパイプ椅子を出すと「これでいいか」と呟く。 「…何時の約束なの?」  発が壁に掛けられた時計を見る。 「6時」 「…じゃあもう時間だね、来るかな奏司くん」  時計は6時少し前を指している。 「さあな。あいつが来なくても高倉がギター返しにくんじゃね?」  まるで人事のように言う綴に発がまた溜息をついた。綴は無理強いするタイプではないが、今回は自分の人生だってかかっているのだからもうちょっと欲を出して欲しい。武市の時はどうだったっけと発が考えた時、ギッと音を立ててホールの重い防音扉が開いた。
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