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「…こんばんは」  顔を覗かせたのは豊だった。 「豊!一人なの?!」  ドアに近付く発を気にせず綴はアンプを電源に繋いでいる。 「失礼します」  豊に続いてギターを背負った奏司が入って来る。 「奏司くん!」  発が安心したように、嬉しそうな声を上げる。 「すみません遅くなりました」 「いや時間ぴったりだよ、ね、綴」  綴は振り向かないでアンプをいじっている。 「オープンキャンパスの時にここにも立ち寄ったので、案内兼ねて俺も来ちゃいました」  申し訳なさそうな豊の声、案内と言いながら多分心配だったのだろう。 「別にいんじゃね」  綴が立ち上がって振り向いた。その表情を見て発は、奏司が来ないという状況は綴の中にはなかったのだと悟る。 「…これぞ藤音綴」  思わずこぼした発に豊が首を傾げる。奏司がホールを見渡しながら綴の方へ向かった。 「いいホールですね」  奏司がギターを下ろして長机に置く。 「音楽系以外にも演劇部やダンス部や、あと講演会にも使うホールだよ。狭いけど設備はいいと思う」  自分たちで椅子を並べ、ステージを組み立て、照明や音響をセットするタイプのホールで、キャパは五十人くらいの小さな箱だ。申請すれば生徒も借りることが出来る。ライブハウスを借りる資金がなかったり、そう大掛かりなイベントでない時は、綴たち軽音部もこのホールを使っている。
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