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「音も好きに作っていいから、任せる」 「はい」  言われて奏司がアンプの前でしゃがむ。幾つかあるつまみをじっと見つめる。 「お前が出したい音…『今』出したい音に合わせろよ」  自分のデイバッグからタブレットと小型のスピーカーを出しながら、綴は「いや違うな」と呟く。 「お前が今俺に歌わせたい音を出せ」  奏司の背中に綴が声を投げる。奏司が振り向く。そしてじっと綴の目を見た。 「…はい」  でなきゃ意味がない。そう言われているのが分かって奏司は再びアンプに向き合う。綴が新しくデモを作り直したのも今の自分を表現したからだ。奏司は胸ポケットからピックを取り出す。綴がそれを眺める。武市が使っていた、そして前のテストの時に奏司が使ったハードタイプではなく、ミディアムタイプのものだった。
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