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ホールの入り口付近から、前でやり取りする二人を発と豊が眺める。何故か自分たちの方が緊張しているんじゃないかと二人は思う。
「奏司くん大丈夫だよね?」
「ヘンタイっぷりは帰って来てましたけどね」
豊が笑う。「でも」と付け足す。
「これが最後だから、そういうノリまで通常運転にしたのかなと、幼なじみの立場としては考えちゃったりします」
「…最後、かなあ?」
発は綴の幼なじみとして疑問符を投げる。
「武市の時の経緯を見てる身としては、本当に勝負に出たのは綴の方なんじゃないかって思うんだよねえ」
「…そうなんですか?」
豊が発を見上げる。
「だとしたら嬉しいな」
「奏司くんの出来次第なのかもしれないけど」
何度もアンプをいじっては音を出して耳をすます。微調整してやっと音を決めた奏司が綴の前に座った。
「でも武市さんの音をあんだけ完璧に弾いたんですから、ギターの腕は確かじゃないですか?」
「んーそうだね、そこは奏司くん天才だから」
あとは綴の意図かなと、発が小声で言った。
向かい合って座るギタリストとボーカリスト。この光景を以前見たことがある。発は祈るような気持ちで息を止めた。
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