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 またしてもアンプから流れる微妙な余韻と共に、奏司がゆっくり綴の顔を見る。綴も同じようにプレーヤーの停止ボタンを押すと奏司を見た。 「あれだな、ちょっと歪ませた感じで入りたいんだな?」 「そうです!」  綴が奏司の右手を取る。 「じゃあ左じゃなくて右で。ピッキング深めにしてその後ちょっとだけ親指の横で弦に触れる」 「は、はい」 「アンプの調整と音の入りをどうしたいかで、お前のイメージが分かる」  綴は奏司が全体的にどうしたいかを掴んだというように一度目を閉じた。 「じゃあ頭から。3カウント」 「はい!」  奏司が赤いネクタイを緩めてボタンを一つ外した。綴が三度再生ボタンをを押す。奏司がカウントに耳を傾け教えられたようにピックを弾いた。  キュイン! 「出来た!」  嬉しそうに顔を上げた奏司の頭を綴がペシッと叩く。 「出来たじゃねえよ、その後続けろよ」 「あ、すみません」  奏司が嬉しいような申し訳ないような笑顔を綴に向ける。 「でも、いい音だった。次」 「はい!」  そしてまた綴がプレーヤーの再生ボタンを押す。
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