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「え、何スかこれ?」  豊が二人のやり取りを見つめたまま発に問いかける。 「れん…しゅう?」 「ですよね?」  前奏部分だけで余裕で三十分は使っている。奏司が弾いては綴がもう一回と告げる魔の無限ループのようだ。 「つか奏司あんなに弾けてたのに何で?!」  豊の焦ったような声に、逆に楽しそうな発の答え。 「それだけ奏司くんが本気で『今の綴に歌って欲しい自分の音』を出しにいってるってことでしょ」  確かに武市の音とは全然違うことは、素人の豊にも分かった。たった四時間の練習では頭で想像している理想の音を出すのは不可能に近い。 「俺はいつになったら歌えるんだ?」 「すみません、もう一回」  言葉とは裏腹に、何の嫌気もない表情で言う綴に、奏司も自分の精一杯の音で答える。綴と一緒に弾いているうちにギターにも慣れてきて、指も動くようになってきた。もうすぐこの音に綴の声が乗るのだと思うと、奏司は泣きそうなくらい嬉しくなった。  前奏部分が完成する。綴が息を吸い込んだ。  そして…。
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