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「俺たち出ようか」
発に促され豊も頷く。そっとドアを開けるとホールの外へ出た。
「この後のことは、俺たちが見てない方がいいと思う。どういう結果になっても」
ホール前の階段を先に降りながら発が豊を振り返る。
「これが最後になって奏司がピアノに帰って、藤音さんがソロで活動して…って可能性もあるんですかね」
「それは二人がどこまで『気付ける』か次第だよね」
「うーん…」
豊が難しい顔をして唸る。『お互いに求めている』だけじゃダメな事情。それを取っ払えるか、その覚悟があるか。
「まあ後は二人の問題だし。飯でも行こうよ、奢ってあげる」
「マジスか!やった」
二人はもう一度だけホールを振り返る。大事な幼なじみ達は音を楽しんでいるだろうか?そして、ちゃんと自分の欲しいものを欲しいと言えるだろうか?
サビにアルペジオを挟む。単音の綺麗な音が響いたかと思うと一気に音を加速させる。最後までそのテンポで走りきるという奏司のピッキング。それに合わせて最後に長く響く伸びのある声で綴が歌い上げる。
音の余韻を残して、演奏は終わった。
二人とも息が上がるほどに夢中になっていて、空調がきいているのに汗をかいていた。
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