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「は…」  奏司が息を吐く。そして脱力したように肩をだらりと下げた。 「楽しかった…」  思わず口から出た奏司の言葉に「うん」と綴も頷く。  奏司にとって夢のような時間だった。  綴と出会ってからそんな夢のような時間を沢山もらったことに奏司は気付いている。悲しくて仕方ない時間も、経験も、それも綴と出会わなければ知ることができなかった感情。斎藤に「音が豊になった」と言わしめた要因は、確実に綴にもらった経験だ。  そして、一番は、性別も超えて好きになってしまった、この大事な感情。  自分の中に、こんなに全てを賭けられるような愛しさがあるなんて知らなかった。  奏司はギターを机に置くと椅子から立ってアンプの電源を切った。そうして綴の方に向き直ると深々と頭を下げる。 「今日はありがとうございました、藤音さん」 「………」  綴が何も言わずに奏司を見る。 「武市さんの時と同じように学校に来てくれたこと、向かい合って演奏させてくれたこと、こうやって自分の音楽を弾かせてくれたこと…一緒に音を作ってバンドを組んだみたいな擬似体験をさせてくれたこと、もう本当に十分幸せでした」
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