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 奏司が時計を見る。午後十時を回ったところだ。 「でもやっぱ俺ダメですね、四時間も時間使っちゃって。武市さんなら今の藤音さんの声に合う音、すぐに弾けるんだろうな」  奏司が額の汗を拭うのを綴がじっと見ている。 「いや、武市さんじゃなくても、藤音さんに合う立派なギタリストは沢山いるのか」  奏司がハハッと乾いた笑い声を出す。  今日の綴の行動は、あの日、武市の音を弾いた自分へのお礼なのかもしれない、奏司はそう思っている。今日一日だけのプレゼントなら、自分も綴と出会った時のようにはしゃいで、豊の前で全力で藤音綴を好きな自分を出して、楽しい気持ちで終わりたいと思っていた。  何も言わない綴の前でどうしていいか分からず、奏司はこの夢の時間の終わりへと向かう準備のように、ゆっくり息を吸い込んだ。 「…じゃあ藤音さん、俺帰ります」 「………」 「さようなら」  奏司が自分のカバンに手を掛けた、その時。 「お前は俺に二度もさよならって言うんだな」
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