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綴が奏司を見上げる。
「え?」
「あの日もお前は俺に『さよなら』って言って出て行った」
GENEでのテストの日、武市の音を奏でたあの日。
「俺はお前と組まないって言った時も、別に離れるって意味じゃないって言った」
綴の射抜くような視線を奏司が受け止める。
「それでも二回もさよならって言うのは、お前が俺を要らないからか?」
「そんな訳っ…」
綴の言葉に奏司が言葉を詰まらせる。
そんな事がある訳が無い。自分が綴を求めないなんて事ある訳が…!
それでも、断腸の思いでそう告げたのは、綴にとってそれが最良だと思ったからだ。自分の拙いギターと、思いばかりが先走るような青臭いガキと組むより、もっと藤音綴の歌を、声を、引き出してくれる武市隆介のような誰かを見つけた方がいい、本当にそう思ったからだ。
そして、この想い。
これは絶対に綴にとって負担になる。
綴はあの録音を聞いただろうか?奏司が一瞬考える。『どう言う意味の好き』として綴が受け取ったかは分からない。でも重さは伝わっているはずだ。もし恋愛感情のそれとして受け取ったとしたら、それでも側に置くとうのは残酷ではないか?
奏司の中に、恋愛感情として藤音綴が自分を好きになるという考えは一ミリもない。
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