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「今日ちゃんとお前の音を聴いて決めようと思ってた」
「…あの間違いだらけの演奏の…何…を?」
奏司の声が擦れる。
無駄な期待はしたくない。
もう一度綴に「要らない」と言われたら、本当に死んでしまうかもしれない。
「演奏技術なんて練習すれば上手くなる」
「藤音さん…?」
「でもその人じゃなきゃダメだって音に出会えるのは奇跡だって、お前だって知ってるだろ?」
知っている、痛いほど知っているけれど…。
綴が何を言おうとしているのかが分からない。
「お前言ったっよな?俺にだってお前から俺を奪う権利はないって」
「言いました…」
「だからお前は自分から俺を切るのかもしれないけど」
その言葉に奏司が口を開こうとするが、綴が制すように瞳に力を込めた。
「俺だって、お前の価値はお前に決めさせてなんかやらない」
心臓を直に握られたような衝撃。
これじゃまるで、
まるで藤音綴に求められているみたいじゃないか。
錯覚したくない。
夢だったら怖い。
「お前の音、好きだよ」
奏司にとって何よりの言葉が綴の口から発せられる。頭から爪先まで電流が走る。
今、地球が終わればいいのに。
奏司は本気でそう思った。
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