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あの日、あのテストの日。武市の音を再現した奏司に向けられた死ぬほど綺麗だと思った、嬉しそうで哀しそうな綴の笑顔。
それに負けない、いや、それ以上の美しい喜びの笑顔がそこに在った。
それは間違いなく佑木奏司だけに向けられたもので、自分が独り占めしてもいい、自分だけにその権利がある、愛しい人の表情だった。
奏司の目から涙が一筋流れた。
綺麗だ。
このままその微笑みだけで息の根を止められるんじゃないかと思うほどに、綺麗だ。
好きだよ、綴さん。
想いが全身から溢れる。
奏司が綴の腕を掴み自分の方へ引き寄せた。
渾身の力で綴の体を抱き締める。
もう離したくない、もう離れたくない。
願うような、祈るような、切な気持ちが腕にこもる。
「はい喜んで!」
もう一度奏司が告げる。
「ははは、居酒屋かよ」
綴が笑う。そして…。
綴の腕が奏司の背中に回る。
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