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「綴さん…」
奏司ほどの強さではないが、綴の細い腕が、きゅっと奏司の体を抱きしめた。
それを感じて、奏司が一層強く綴を抱き締める。
「綴さん…綴さん…」
名前を呼ぶので精一杯のような奏司の涙声。綴は子供にするように手のひらでポンポンと奏司の背中を叩いた。
「苦しいんだけど」
笑い混じりに綴が告げる。それでも奏司は力を緩めない。
「綴さん」
「…うん」
奏司が愛しそうに名前を呼んで、綴がそれに頷いた。
これから二人でやっていく決意。
奏司が一瞬腕を緩めて、間近にある綴の目を覗き込んだ。鼻先にある茶色の目。
『好きだよ』
心の中で奏司が告げる。
綴が何かを感じる。そして一瞬朱の走った目元をバレないよう、隠すように奏司の肩に額を着けた。背中に回した手が奏司のシャツを掴む。
愛おしくてたまらない。
奏司は綴の髪の毛を一度撫でると、もう一度名前を呼んで、そっとその茶色の髪の毛に口付けた。
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