22.

1/17
前へ
/395ページ
次へ

22.

『一緒に音楽をやろう』と約束したからと言って、次の日からいきなりガラリと生活が変わる訳ではなく。  夏休み。八月初旬、ピアノコンクール本選の会場に綴と発、そして豊は居た。高層ビルや高級マンションが建ち並ぶ街、湊街。今回奏司が出場するコンクール『湊街芸術ピアノコンクール』の本選もその一角の、キャパ五百人を超える大きめのホールで開催されている。   このコンクールは国内屈指の大規模コンクールで、上位入賞者は秋に開催される国際コンクールに推薦されることもあって、全国からピアノの猛者たちがこぞって出場する歴史あるコンクールだった。 「先生たちも予選はむしろ視野に入れてなくて、本選でメダルを取れるかって感じらしいっスよ」  飲食スペースでカップジュースを飲みながら豊がプログラムを広げる。高校生以上は一般部門として位置付けられるプログラムに奏司の名前が有る。 「相変わらず凄いのね、奏司くん」  発がプログラムを覗き込む。コンクールの概要がざっと書かれている。 「予備予選は先生の推薦と自己推薦で映像審査、年齢や学校名は伏せられる。予選は六十人に絞られ、本選には更に絞られた二十名が出場…だって。綴」  アイスコーヒーの入ったカップを片手にスマホを見ている綴に発がプログラムに載っているコンクールの概要を読んで聞かせる。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加