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「ちょっと聞いてる?」
発が綴を見る。だが綴はアイスコーヒーのカップを置くと、カジュアルコーデのネクタイを緩めながら、眉を寄せてスマホ画面を見ている。多分発の話は聞いていない。綴はチッと小さく舌打ちして口元を押さえている。
「今回の出場は前向きな感じでしたよ、奏司」
豊もそんな綴を横目で見ながら発に告げる。
「まあいきなり、バンドやるのでピアノ止めますって言える時期じゃなかっただろうしね。予選始まってたみたいだし」
バンドを組んで具体的に何をするのか、そのビジョンが見えるまでは、とりあえず奏司の家の事情も考えてピアノをやっておいた方がいいということらしい。
『本選に出場できたので見に来てください』と奏司に言われ、三人は今ここに居る訳だ。
「うわ!」
スマホを見ていた綴が声を上げた。発と豊が何事かと綴を見る。綴の手のひらの中でスマホが小刻みに振動している。
「電話?」
それを見た発が「出ないの?」と綴に問いかけると、綴は発を横目で見て一度頭を掻き、通話ボタンを押した。
「何だよ」
ものすごくぶっきらぼうな声が綴の口から漏れる。いや、ぶっきらぼうと言うよりは照れ隠しのような…。
「はあ?!」
綴は今度は驚きの声を上げて、スマホを耳に当てたまま周りをキョロキョロと見た。そしてエントランスへ移動すると、外に出ようと大きめのガラス戸に手を掛けた、その時。
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