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発と豊が捕らえたのは綴の方へ走ってくる奏司の姿だった。
奏司も耳にスマホを当てていた。綴がさっきからやり取りしていたのは奏司だったのだと二人が気付く。
「お前なあ、この時間に演奏者がここに来るっておかしいだろ!」
綴が通話を切って、目の前に現れた奏司に直に抗議する。
「いや、何か緊張しちゃって。これは綴さんに会ってエネルギー補給した方がいいのかなと思って」
「嘘つくんじゃねえ!緊張してる顔してねえんだよお前!」
綴を見つけてにこにこしている奏司の表情に、確かになと、二人の元へやってきた発と豊も思う。
「ねえあれ佑木奏司じゃない?」
綺麗めの服を来た大人女子二人が奏司を見てヒソヒソ話している。
「何でエントランスに居るの?!」
そう言いながらもスマホで写真を撮ろうとしている。「かっこいいねー」という声が聞こえた。
綴はまた舌打ちすると奏司の手を引いて一度外に出た。外に出ても人は多く、奏司はピアノ界隈では有名なので、やはり男女問わずチラチラ見られているのが分かる。
「だから来るなっつったのに」
スマホのメッセージ画面には『会いに行っていいですか?』の文字。『ダメだ』の返信、『ちょっとだけ』と食い下がる奏司のお願いスタンプ。『絶対来るな』という綴のエクスクラメーションマークが6つ付いた返信。
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