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「…それで電話ね」
「もう近くまで来てます的なやつですね」
悟ったように発と豊が半笑いで二人を見る。
「ある意味幸せそうで腹立つわ」
ぼそっと発が呟く。
「目立つんだよお前は!」
綴がそう言って比較的人の少ないエレベーター乗り場の方へ奏司を誘導する。腕を引っ張りながら綴が奏司をチラリと見る。
前に行った時計坂の定期演奏会の時に、コンサート仕様の奏司を見て悟ったのだ。『正装したこいつはかっこいい』。今日も黒のスーツに黒のシャツで、スーツの襟にはスクエア型で中央に濃い青色のスワロフスキーが一粒付いた、シルバーのラペルピンが付いている。いつもの数倍大人ぽい。並んで立つと綴の方が年下に見えそうだ。
こうして移動している時でも数人が振り返る。中には奏者としての奏司にではなく、その容姿に振り返る女子たちも居た。綴は何かモヤモヤして居心地の悪さを感じる。
「嫌なんですよ、楽屋。ピリピリしてて」
綴のそんな気持ちも知らず、奏司が腕を引かれながら呑気に話す。
「そりゃコンクールなんだからピリピリもするだろ。お前がリラックスし過ぎなんだよ」
綴がじろりと睨んだが奏司はヘラっと笑っただけだった。
「でも綴さんにエネルギー補給してもらおうと思ったのは本当ですよ」
「………」
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