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こんな風に飄々と笑っているが、今日までどれだけ奏司が練習したかを考えると、本当に栄養ドリンクでは足りないくらい消耗しているのかもしれない。そう思うと綴は何も言えなくなって目を逸らした。
エレベーター乗り場の更に奥に喫煙所を見つけ、綴が「ラッキー」と呟やく。一旦奏司を置いて、喫煙所に入って煙草を銜える。さすがに奏司は入って来なかったが、表でコンクリートのフェンスにもたれて気持ちよさそうに風を浴びている。ちょっと落ち着こうと思った綴は「一体何に落ち着くんだ?」と考えて、奏司に目を遣る。奏司も綴の方を見て、ニッコリ微笑んだ。
「…腹立つな、マジ」
ぼそっと独り言をこぼすと、綴は煙草を吸わず外に出た。
「ん」
奏司に向かって手を出す。奏司がそれはそれはとても嬉しそうにその手を取った。両手で包み込むように優しく握ると奏司が目を閉じる。
…かっこいいな、ホントに。
奏司の長い指と大きな手のひら。その温かさが妙に気持ち良くて、素直にそう思ってしまった。
「頑張れそうです、ありがとう綴さん」
「………」
この天才のエネルギー源に自分がなっているのかと思うと、悪い気はしない。
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