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佑木奏司にとって、自分が全てなのかもしれない、奏司の態度を見ていると本当にそう思えてしまう。だからこそ…。
「奏司」
「はい!」
名前を呼ばれて嬉しそうに奏司が綴を見つめる。
「コンクール終わったら時間あるか?」
「え?」
握られていない方の手にはめられている腕時計を綴が見る。デジタル表示のそれが今日の日付を綴の目に映した。
「ちょっと付き合え」
奏司が握ったままの綴の手を更にギュッと握った。表情が一瞬曇る。気付いて綴が「違う違う」と首を振った。
「嫌なことじゃねえよ」
「…そか、よかった」
定期演奏会後に、「お前とは組まない」と 綴に言われたのがトラウマになっているのか、奏司は否定する綴の言葉に心から安堵した表情をした。
演奏前に変な気持ちにさせてしまっただろうかと、綴がちょっとだけ焦る。そして、
「終わったら表で待ってるから。デートしようぜ」
ちょっと気持ちを立て直してやろうと明るく軽く言ってみた、冗談のようなもの、綴にはその程度だった。
「デ、デ、デ、デート!!!」
テンションがマックス上がった奏司が、勢いで握った綴の手を引き寄せる。
「えっ」
綴の身体がぐっと奏司に近付いて、綴の心臓が大きく鳴った。
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