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翌日になっても熱は抜けなかった。
「マジですっげえよかった…」
机に突っ伏して反芻する奏司に幼なじみで親友の高倉豊が「お前何回よかった言うんだよ」とツッコんだが奏司は気にせず恋する乙女のような目で豊を見返した。
「もっかい聴きたい、藤音さんの歌…」
机に頬を付けて溜息をつく仕草を、遠くで女子がガン見している。サラリとした黒い前髪が、同じく真っ黒な瞳を少しだけ隠して、物憂げな雰囲気に拍車をかけている。自分がイケメンだという自覚のない幼なじみを紹介して欲しいと、豊はもう何度も女子に頼まれていた。音楽科のカリキュラムで普通科の女子と付き合うのは厳しいとか何とか言って毎回断っているが。
その人気男子は今、片思い中の女子のように憧れの人を反芻しまくっている。
「あのな奏司、そもそもあのライヴは…」
何かを説明しようとして豊が思い直したように別の言葉を口にした。
「まあよかったよ、お前元気出たみたいで」
「え?」
奏司が首を傾げる。
「最近特に限界ぽかったじゃん、お前。俺ら普通科には分からん苦しみなんだろうなと思ってさ。ちょっとでも気晴らしになればいいかなと思って誘ったんだよ、あのライヴ」
「…豊」
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