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限界という言葉が少しだけ胸に刺さる。そうか、幼なじみの目にはそう見えていたのか。
「ありがと、そんで、めちゃくちゃいい選択だった」
藤音さんの声が聴きたい…奏司は溜め息と共にまた机に突っ伏した。
「効果通り越して劇薬だったな」
「劇薬歓迎。なあ、また藤音さんのライブないの?」
こんな風に何かに強く執着する幼なじみを今まで見たことがなかった豊は、ちょっと気まずそうに曖昧に笑った。
「あるっちゃあるような…」
「え!マジで?!藤音さんのライヴあんの?!」
餌の肉を放り込まれたピラニアよりも早く食いつく奏司に豊は、
「まあ、そんだけ心酔しちゃったなら自分で確かめた方がいいか」
そう言いながら時計を指差した。
「あ、やばい、昼休み終わる!」
奏司が食べかけのパンを無造作に袋に放り込んだ。
「豊、後で詳細連絡して!俺絶対ライヴ行くから!」
「…おー」
パックコーヒーのストローをかじりながら緩く豊が手を上げて答える。奏司は教室を出ると階段を駆け下りた。
青いネクタイの集団の中を赤いネクタイの奏司が駆け抜けて行く。いつもは重い隣の校舎までの足取りも藤音綴の歌をまた聴けるのかと思うと、このまま飛べるんじゃないかと思うくらい軽くなった。
「持つべきものはライヴハウスでバイトしている友人!」
奏司は予鈴とともに『音楽科』と書かれた門をくぐる。緑色のネクタイの中を駆け抜けてピアノ練習室へと入って行った。
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