1.

4/6
前へ
/395ページ
次へ
『私立時計坂学園(とけいざかがくえん)音楽科』  中高一貫の音楽科があるこの学園には全国から音楽のプロを志す者が多く集まっている。  有名音楽コンクール受賞者を多数排出していることや、名だたるオーケストラへの入団を果たしている卒業生も多いというその実績から、入学希望者は多く、入試の倍率は毎年十倍を超える。受験者本人はもちろん、その家族にとっても、この学園の音楽科に合格したことがステータスになる程だ。  入学後の生徒たちは『赤ネクタイ』を目指して切磋琢磨することになる。通常音楽科の制服のネクタイは緑色なのだが、学年ごと各コースの成績上位者五名だけが赤いネクタイを着用することを許される。  この制度は学内だけでなく学外でも有名で、街を歩いていても音楽科のエリートとして見られる。簡単に言えば『優秀である』ということが一目瞭然になるということだ。こうして生徒どうしの闘争心を煽り練習に邁進させる目的もある。  故に、緑のネクタイから赤いネクタイに変わることを夢見て、または赤いネクタイから緑のネクタイに戻らぬように、生徒は日々血の滲むような努力をしている。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加