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 奏司は学校の授業の後、週三回ピアノの個人レッスンに通っている。海外で演奏活動をしていた有名な先生で、誰かの推薦がないと師事できないような元プロ演奏家だ。  そんなありがたいレッスンも、今日はあまり身が入らず何度か怒られた。集中力には自信があった奏司だが今日は特別だ、仕方ない。  奏司はレッスン室を出ると真っ先に切っておいたスマホの電源を入れた。起動するのも待ち遠しくて、食い入るように通知画面を見る。そこに豊の名前を見つけ思わず「っしゃあ!」と声を上げた。慌てて振り向くと、先生は次のレッスンの準備をしていた。防音でよかった、そう思いながら豊からのメッセージを開く。 『今週土曜日、GENE(ジーン)で対バンライブ。たぶん藤音さんは三番目だと思う。八時までには来た方がいいな』  GENEというのは豊がバイトしているライブハウスで、先日藤音綴のライブを観た場所でもある。奏司はスマホの画面を切り替えスケジュール帳を開く。土曜は午前中学校で級友とアンサンブルの練習、その後四時から個人レッスンが入っていた。  みっちりレッスンしたら八時ギリギリになるかもしれない。延長でもされようものなら…いや、藤音さんのためなら仮病だって使おうこの際。本気でそう思うとスケジュール帳に『藤音さん対バン』と書き込む。 「ところで…」  クラシック畑の城の中で、奏司はロックという別世界のネット検索エンジンを開いた。 「対バンて何だ?」
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