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2.
人にぶつかりそうになりながら改札を抜けると、奏司は全速力で走った。
やばい、遅れてしまう!腕時計を確認すると八時三分前だった。駅からGENEまではそう遠くない。週末の人混みを避けながらとにかく走る。背中に背負ったデイパックに詰め込まれている楽譜が重い。捨ててやろうかと本気で思う。
GENEのネオンサインが見えた。GENEは入り口から地下に下っていくタイプのライブハウスで、地元のバンドに愛される小さな箱だった。
「ちょい待ちちょい待ち!」
受付に座っていたでかい身体のヒゲのお兄さんに止められる。奏司は「あ」と言って、事前に豊からもらったチケットを取り出した。
「いや、そうじゃなくて」
お兄さんが奏司のブレザーの袖を軽く摘んだ。
「制服はダメっしょ、いくら何でも」
苦笑いするお兄さんに「え、ダメなんですか」と奏司が振り向た。
「わ、赤ネクタイじゃん」
お兄さんがびっくりしたように奏司を見た。
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