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小さな願い
日に日に借金取りが荒々しく声を上げて、ドアを叩き怒号が続く。
父は気が小さかった。返済が滞り、鳴り響く電話。名前を呼ばれ玄関を叩く音。人を追い詰める為の声や言葉は、簡単に人を壊して行く。
部屋の片隅で怯えて震えて、父はあっという間に家に帰って来なくなった。
「父親が払えないのなら代わりに払え」
取り立て屋の言い分はこうだった。ファミレスの給料で少しずつ返済をしていても、到底追いつくような金額では無い。高校に行くことを諦め、バイトをして生活をしていたけれど、父は酒に溺れ、仕事に行くことは無くなり、借金だけが積み重なっていた。
「体を使って稼ごうか。もう本職の人に頼んであるから」
すぐに匙は投げられ、ホンモノが来た。今までとは違う。その名の通り本職の人たちだ。恐怖心から心臓の音が早まって、えぐられる様に体が震えた。
「湊あかりさん? 」
扉の隙間から見えたのは坊主頭に剃り込みの入った男と、金髪のガタイの良い男。派手で強欲な見た目と、異質な雰囲気を醸し出し、今まで出会ってきた人種とは別物だった。
覚悟は決めていた。それでも、自分が見知らぬ人達に染められていく想像の容易い未来に、体が怯えて動けずにいた。
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