接触

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「君たちここ初めて? 」 男が2人組の女に声をかける。男はタイトなシャツに細身の黒いパンツ。ブランド物の靴に、左耳にはダイヤのピアス。 背の高い色男は相変わらず人目を惹いている。 「そうなんですー。最近、ここの話聞くんで遊びに来ましたぁ」   「ふーん。誰の紹介? 」 「紹介って言う訳じゃないんですけどー友達から格好いい人も多いって聞いてー」 ダメージの目立つ派手な髪色の女が頬を緩め、猫撫で声を出しながら男の容姿を上から下まで見回している。すっかり浮かれた女は、谷間を寄せて今にも腰を振って付いていきそうだった。 「学生? 」 「そうですぅ」 「暇なら一緒に飲まない? 」 「えー。嬉しいですぅ。お兄さんめっちゃ格好いいし」 「俺だって君達みたいな可愛い子と飲めて嬉しいよー」 「でも私お酒弱いから……ちょっとこういう雰囲気慣れなくて」 もう1人の連れの女が少し引く様な態度を見せる。派手な髪の女の相方のわりに、染めていない黒髪と肌の露出の少ない服装がクラブでは逆に目を惹いた。 「そうなの? あーじゃあ良いもんやろっか? 」 長身の男は女達の肩に手を回し、顔を寄せて黒髪の女の耳元で囁く。指先は派手な髪の女の肩を撫でて、どちらの女も疎かにせず女の落とし方を熟知している。 「え……な、なんですか? 」 「これ食べるとめっちゃ元気になるよー」 長身の男は透明のパケットに入った錠剤を見せる。カラフルな色の粒は一見ラムネの様な見た目で、その辺に売られていれば何の抵抗もなく女達が買うだろう。女達に見せたあと、手品の様に手の中にパッと閉じ込める。 「えー? 何ぃ? 何かめっちゃ可愛いやつが見えたぁー」 派手な髪の女は食い付く様に男の手の中を覗き込んで、黒髪の女は少し怪訝そうな顔で男を見ていた。 「ねぇ。ちょっとヤバいやつなんじゃない? アユカ止めなよ」 「えー! 何言ってんの。こんな可愛いやつがヤバいやつな訳ないっしょ? やばかったら、いくら君たちが可愛くてもタダであげる訳ないじゃーん。最近流行ってて体にも良くて、肌とかもツルツルになる最新のサプリ。ほらっ」 男はまたカラフルな錠剤を女達の前に見せて、舌を出し青色の錠剤を手に取って一粒食べてみせた。 「ほらー。リン、確かにこんな可愛い見た目でヤバい訳ないじゃん。お兄さん食べてるしー」 派手な髪の女は黒髪の女の肩を掴んで、目の前にぶら下がる錠剤を指差す。 「……本当ですか? 危なくないのよね」 黒髪の女は疑いを拭いきれないまま、男の顔を見ながら両手でパケットを受け取る。 「もちろん。じゃあさ、一緒にVIPルームに行って飲まない? 」 長身の男は女達の肩に再び手を回すと、悪戯に笑みを浮かべる。 「仁。いけ」 男達の会話は俺の背後で行われていた。鏡で囲まれたクラブ内は、背を向けていても手に取る様に目に映る。 携帯を耳にあて、電話をしながら背を向けている俺が会話を聞いているとは思いもしない様で、今も男は女達を口説いている。 仁は電話口から俺の言葉を聞いて、気配を消しながら一瞬のうちに男の背後に回り込んだ。
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