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「うっ……」
仁は長身の男の2倍近くもあるであろう太い腕を、背後から男の首に腕を回す。しっかりと男の首に埋もれた仁の腕は男の呼吸を妨げる。
「はいはい。お兄さん。良いものありがとう。ちょっとお話し聞けるかなあー」
タカヤが長身の男の前に回り込んで、舌を出し全身を見回す。色男の歪んだ顔に興奮を覚えている様だった。薬物をバラ撒く様なクズな男でも好みは好みと言う所だろう。
「ガッ……ア……」
「静かに静かに。首が締まっちゃうから」
男が抵抗を見せると仁が容赦なく腕に力を入れる。振り返った俺は男の前に行って、人差し指を立てて静かにする様、男の怯えた顔を見る。男はタカヤと俺の顔を交互に見て、状況が掴めた様で諦めの顔を見せた。
「お利口さんだねぇ。ここで騒いでも何の得もないからね。まぁ誰も……気付かないだろうけど」
仁が首と腕を押さえながら男を歩かせる。男が女達に助けを求める様に必死でサインを送っている。
「あー。このお姉ちゃん達は仕込みだから無駄だよー」
男はその言葉を聞いて、がっくりと項垂れた。仁とタカヤが男と歩き出すと、俺は立ち尽くす女達に顔を向ける。
「リキヤの紹介だよな? いい仕事してたよ。ありがとね。このクスリは止めておきな。可愛い顔がゾンビみたいになっちゃうからね」
錠剤の入ったパケットを女から取り上げ、代わりにポケットから出した万札を数枚握らせる。
「は、はい。ありがとうございます」
女達はどこまで何を理解しているかは知らないが、世の中知らない方がいい事の方が多い。
「あ、あと、見た目が良いからってこんな場所で簡単に男について行ったら、知らない男達に悪戯されちゃうから気を付けるんだよ」
男が居ないと生きていけない女には、その隙間に悪意がつけ込む。恋をしたいだけ。寂しいだけ。帰る場所がない。理由なんて腐る程あるけども、体を傷付けられてゴミの様な扱いを受けたら、ありふれた理由が自分を傷付ける凶器に変わる。
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