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「お疲れ様です」
黒塗りのワゴン車に戻ると、運転手以外にタカヤ、仁、リキヤ、リキヤの舎弟が乗っていて、揃えた様に声が届く。
長身の男は後部座に座らされていて、顔を何度も左右に振って抵抗をしている様だった。両腕は後ろで縛られ、首には細めの紐が巻きつけてある。首に巻きつけた紐は仁が持ち、足元はロープで結ばれていた。
「よいしょ……」
男の前に腰を下ろし、靴のまま男の膝の上に足を乗せる。暴れる素振りを見せると、すぐに仁が「暴れるな。殺すぞ」と首の紐を引っ張る。
「あ、そうだ。リキヤ。さっきの子達のどっちか、お前の女? 」
「あ……は、はい。そうっす」
「どっち? 茶髪の子? 黒髪? 」
「茶髪っす。金髪に近い様なやつっす」
「あーそう。ふーん」
「な、何か、粗相がありましたか? 」
リキヤが体を震わせる様に俺の顔を見ながら、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「いや? ちゃんと仕事してた……。助かったよ」
今にも腰を振って付いていきそうだった事は腹の中にしまった。ヤクザは大体女を数人囲っているし、あの女が寂しくて他の男に行くならば、それはそれで幸せだろうと思った。黒髪の女は簡単には流されるタイプではなさそうだったし、ああいう友人がいるなら、リキヤの女も目が覚めてヤクザの男と付き合う事は止めるかも知れない。
「で? お兄さんは何者かな? 洗いざらい話してくれないと、痛い思いしちゃうよー」
俺の動向を怯えながら見ている男に視線を戻して、本題に入る。子分の女まで気にしていたらキリが無いが、不意に亜希を思い出す。
女を平気で売り飛ばすヤクザの俺に、感謝するさっきの女達が哀れに思って雑念が入った。
「……たっ……ただの売人です」
声を震わせながら答える男の膝の上に乗せていた足を、思い切り振り落とす。
「売人は分かってるんだよ。どこでー、誰がー、仕入れてー、仕切って売り捌いているのか、全部答えろって言ってんだよ」
男は痛みで声が漏れて、前屈みになるも仁に髪を引っ張られ歪んだ顔をこちらに見せながら息を荒くする。
「で? つーか俺も暇じゃねぇんだよ。お前みたいな下っ端じゃ話しになんねーから、さっさと答えろ」
俺の苛つきを察して、タカヤが指輪の付いた拳で男の頬を殴りつけた。鈍い音がして色男の顔から血が吹き飛んで、鼻からだらだらと血が流れる。
「やめっ……やめでぐだざ……いいます。いいまずがら……」
仁に胸ぐらを引っ張られ、男はよだれを垂らし、涙を溜めてタカヤに命乞いをする様に声を絞り出す。
「嘘ついたり隠したりした瞬間にお前の指は1本ずつ折られていくから、そのつもりで」
「……はい。はい。分かっでまず……」
男はタカヤに指を取られ、血の気が止まっていく指先を見ながら何度も上下に頷く。
「アニキ。先戻ってて下さい。すみませんっした。手間かけさせて。ちゃんと吐かせてから行きますんで」
「ああ。じゃーママのとこ行ってるから後から来い」
「おい。リキヤ、何人か連れてアニキ送ってこい」
「分かりました」
数日前、組の若い奴らを見回りに行かせて1人の男を捕まえたが、下っ端も良いとこで何1つ本筋の事を知らなかった。そいつの携帯を使って、唯一聞き出せだのが、長身の男が今日ここで売り捌くと言う情報だけだった。
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