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サキ
「……あ! アニキ。あの女っすね」
大通りを挟んでクラブの向かい側に停めた車から息を潜め、タカヤが指差した先の女を目で追いかける。
「やっとかよ。背の高い男から始まって、受け子さらって、何人目で辿り着いたよ。はぁ」
思った以上のハイエナの大所帯にうんざりして、サキと言う女帝の顔を早く拝みたくなっていた。
「どうします? 」
「仲間に見つかると面倒くせぇから、人目につかないようにさらえ」
「今日は、あそこのクラブに行くみたいなんで、クラブ入る前がいいっすかね」
「そうだな。こっちもこんないかにもって車で来ちゃったからなぁー。とりあえずクラブの方に車停めておけ」
「分かりました」
「あっ! アニキ! 今、電話きたみたいで、携帯持って裏路地に入りました」
タバコを吸おうと胸ポケットに手を入れると、少し興奮した様子でタカヤが外を覗いたまま声を上げる。
「おい。今行け! 騒がれるなよ」
後部座席のドアの前で待機している仁に合図をすると、黒いマスクをして顔を隠す様にフードを被る。
「はい」
「おい。車あっち回せ。裏路地の方だ」
仁とリキヤが車から降りて走り出す。仁達が降りるとタカヤがすぐにドアを閉めて、運転席の後ろに移動して運転手に指示を出す。
「あっちっすか? 」
「そうだ。急げ」
「わかりました」
運転手がハンドルを切り返し、裏路地に回り込む。女は大通りから人目を避ける様に細い路地に入って、ヒールのかかとをトントンと鳴らす様に電話を続けている。
大通りから避ける様に、車を迂回して回り込ませる。仁達は大通りを横切って女を視界に捉えると、辺りを見回してから女の背後に回り込む。
女が自分の視界に入り込む影に気付いて、後ろを振り返ろうとする時には仁の手が、女の小さな顔を押さえ込んでいた。
仁が女の姿を覆う様に手の自由を奪って、車の到着を待つ様に辺りを見回す。
車が仁たちのそばに寄るとタカヤが後部座席のドアを開け、仁とリキヤが女の体を軽々と抱きかかえ車へと連れ込んでくる。
女は足をバタバタとさせるも押さえ込まれた口元から声一つ漏れることなく、俺の前に女帝が転がり込んだ。手慣れた人間たちの連携は、ものの1分で人をさらうことが出来る。
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