サキ

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「い……いだ……やめ……」   女は縛られた足をバタバタとさせて、苦痛に顔を歪める。素足に縄が食い込んで、朱色に染まっていく肌が生を実感させた。 「ちが……ちがうんです……いっ」 「何が違うの? 俺は優しいから聞いてあげるよ」 仁に待つように手を向け、青ざめていく女の顔を眺めた。すでに顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、肌寒い時期に1人噴き出す汗が身体中を覆っている。女はふーふーと息を吐きながら、消えるような声で話し出した。 「……かわ……さきさんが」 「川崎? 」 「……はい。川崎さんから……頼まれて……」 「何で川崎? あいつが大元なの? 」 女の口からこぼれた名前に思わず顔が歪む。タバコを足元に放り投げ、足で執拗に踏みつける。   「それで? つーか、川崎はどこでそんなツテが出来たわけ? 俺たちの目をかいくぐって。クスリを売り飛ばすにはそれなりのルートも必要だし、俺たちのシマなら必ず耳に入る。随分、内密にやってたみたいだけど、なんで? 」 腑に落ちない疑問たちが饒舌にさせる。女の前に腰を下ろし、顔を見上げる。仁は女の手首を掴み手を押さえつけ、爪の間にナイフを突き立てる。 「……すっ少し前、羽振りのいい奴らが店に来るようになったの。チップもくれるし、紳士的で、でも関西弁喋ってて明らかに普通じゃない感じだった。ヤクザは……入れないけど、貸し切りみたいな感じで店を使ってくれるから川崎さんも目をつぶってた」 女は自分の爪先に突き立てられたナイフを横目で見て、何度も息を飲む。仁の動向から目を離す事が出来ないようで、女は言葉を出す度に大きく息を吸い込む。 「……か……川崎さん。そのうち……その人たちと飲みに行くようになって、あたしも一緒に連れてっ行ってもらった事あるんだけど、キャバクラとか行って、ちょー豪遊して、とにかく……羽振りが良かったの。それで少し親しくなってから、ドラッグの話を持ちかけられみたい」 女の首筋には汗がつたい、仁のナイフが爪先から少し離れた事に安堵した様で視線を俺に戻す。 「売り上げの何パーセントとかも貰えるみたいで……川崎さん夜の街で顔が効くから新種のドラッグを売り捌く手引きをしてあげたの。一度見たことあるけど、手付けだけでもだいぶ貰ってた」
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