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「で、何でお前が売り捌いてんの? 」
「……川崎さん店もあるし、顔も知られてるから自分で売り捌くにはリスクが高いって。あたしに小遣い稼ぎで代理やらないかって言ってきたの。クスリの売人なんて嫌だったけど、借金もあったし、風俗で男とやるより稼げるし、かわ……川崎さんのこと好きだったから、あたしがサキとして川崎さんの指示の元、動いてたの」
「サキとして? あー? サキってカワサキのサキ? 」
「……そう」
「はっ。だっせえな。てめえの名前もじってんのかよ。お前……本当は何て名前なの? 」
「……る……瑠奈」
女は口紅の剥げた下唇を噛みながら答えた。虚な瞳ですぐに視線を逸らす女に、じっとりと纏わりつく違和感が消えない。
「……瑠奈ちゃん。他に知ってること話して。この後、川崎さらってくるから何か隠しても無駄だよ」
女は俺の言葉に息を荒げ、逃げる様に顔を下に向ける。
「早く喋れよ。つーか、お前もクスリキメすぎて目がイッてんなぁ。もう痛みも感じねえだろ? 」
「ぎゃー! 痛い痛い痛い痛い、い、言います。言うからやめてー」
仁が女の爪を刺すと、女は電流が走った様に体を左右に震わせながら叫ぶ。
「……あっあたしのせいじゃないから。あたしは! あたしは……何もしてないの。だから、これから話すこと聞いても、あたしを痛め付けないって約束してくれる? 」
女は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにさせながら、俺にすがりつく様に命乞いをする。
「あー? そんな事言える立場だと思ってんの? 何様のつもり? 」
纏わり続ける違和感が何なのか、女が隠し持っているものを聞いてやろうとパイプ椅子に腰を戻した。胸ポケットからタバコを出すと、タカヤが火を付ける為にライターを取り出そうとしたので、手を向けて制止する。
「お願い。お願い。ぜ、全部言うから……全部話すから……や、やめて下さい」
女が縛られた縄に体を食い込ませて、何度も頭を下げながら泣き叫ぶ。朱色だった縄の痕も、青黒く色を変えていく。
「ふーん。まぁいいや。で? 何? 」
タバコを指先に挟んで、煙越しに女の顔を見る。何がこの女を追い詰め、心を蝕んでいるのかタバコを肺の奥深くまで吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
「……あ、あかりちゃん」
女が俺から目を逸らし喉を詰まらせる様に呟く。こんな場所で聞くはずもない名前に、腹の奥にウジが湧いた様に吐き気を覚えた。
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