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重ね合う
エレベーターの音が微かに耳に届く。21階に辿り着く時間が沈黙を飲み込ませる。
我慢できずに、ここでヤリ始める程溜まってる訳でもないし、ソープに売る女に盛るほど女に飢えてもいない。
視線を交わすこと無くエレベーターが止まり、女を気にする事もなく部屋の前まで歩いてカードキーで鍵を開けた。
「……どうぞ」
扉を開けて中に入るように促す。
「……お邪魔します」
女は少し頭を下げて、俺の前を潜るように通り過ぎる。フラットになっている玄関から廊下の境目が分からない様で、はたと立ち止まり早々とスニーカーを脱いでいた。玄関で裸足で立ち尽くす女を横目に、女の脱いだ靴よりずっと先に靴を脱いだ。
「つーか、お前のその服装じゃ全くその気にならない。何そのパーカーにデニムにスニーカーって。中学生かよ」
「すみません」
女は立ち尽くしたまま、自分の体に目をやった。
肌に馴染む白い天然石の廊下は夏を過ぎると途端に冷えてくる。女に背を向け、リビングの扉の取っ手に手をかけると妙案を思い付いた。
「そーいや。あいつの服あったな」
女の方に振り返って、バスルームを指差す。主人の指示を待ち続ける犬のように女はじっとそこにいた。
「おい、そこ左が風呂だから入ってこい。俺が飛び切りエロい服用意しておいてやるよ」
「飛び切り……はい」
女は僅かに目を見開いて、すぐに従順に頷いた。指先をぎゅっと掴み、裸足で玄関に立ち尽くす女の姿を見て、このまま逃げ出しても構わないと少しだけ思っていた。俺の中で、気まぐれが気の迷いに変わっていたのかも知れない。
こちらをじっと見ている女の行く先を確認しないまま俺は、リビングの扉を開けた。
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