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ガチーン!と耳を刺す鈍い音と、パイプ椅子が倒れ込む音が響く。川崎は椅子ごと吹き飛んで、コンクリートと砂の混じった地面に体が引きずられていった。
「おい起こせ。鉄パイプは、死なせねぇようにするの大変だな。手も痛いし。今度はバッドにしろよ。まだマシだろ」
手のひらには鉄パイプの余韻がジンジンと残り、素手で殴った事を後悔した。
「ゔぅ。ずみばぜん。許しで……いだい……」
川崎は仁たちに椅子ごと引きずられ、俺の前に座らされる。手の痺れが治らなくて鉄パイプを投げ捨て、パイプ椅子に腰を下ろす。
夜の静寂に投げた鉄パイプがコンクリートに弾んで、金属音が響く。
「本当はよ。このまま頭かち割ってやりたいけど……まずはお話しようかなぁ。ナイフよこせ」
川崎の怯えきった顔を覗き込みながら手を広げナイフを催促すると、仁が俺の手にナイフを滑り込ませてくる。
「さてと。どこから話そうか。随分と舐めた真似してくれてさぁ」
受け取ったナイフを天井の灯りに照らす。良く磨かれて、切れ味のよさそうなナイフに思わず笑みがこぼれた。
「ちっ違いまず。ずみばぜん」
「俺が気に入らなかったらしいなぁ。たかが、風俗の店長ごときが俺様に随分舐めた態度だなぁ」
「そ、そんなわけあるわけないです。誤解です。誤解……」
川崎は取り繕う様に笑みを浮かべ、顔を左右に振り乱す。媚びへつらう顔を見て、こいつの胡散臭い顔が嫌いだった事を思い出す。
「瑠奈だっけ? あいつがぜーんぶ話してくれたよ」ナイフを仁に戻し「首に当てとけ」と告げる。
「く、薬ばらまくの頼まれて。つい、出来心で……ずみばぜんっっっ」
川崎は椅子に縛り付けられた体を必死に前後に振る。カチッと決まった川崎自慢のヘアスタイルが乱れ始め、顔には脂汗がじっとりと溢れ出す。
「あぁ? てめーの都合なんか知らねぇよ」
タバコを数本取り出してまとめて口に咥えて火を付ける。ニコチンを味わう事もなく1本手に取って、ギュッと川崎の手に押し付けた。
「あつっっ」川崎の体が大きく揺れる。
「それで? 何だっけ? 俺が気に入らないから? あかりを薬漬けにしてやったんだっけ? 」
押し付けたタバコを口に戻して、煙を肺の奥まで吸い込む。束ねたタバコの煙をゆっくりと目で追った。この世でどの方法が最も人間を痛め付け苦しめる事が出来るのだろうかと、自分の人生らしい残虐非道な産物が脳内を支配していた。
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