ササヤカな花

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その後もずっと 西川さんはニヤニヤと私を見ていました。 「俺と付き合ったら思い出の王子様と会わせてあげるけど?」 なんて偉そうに言うので 「別にいりません」 と断りました。 結婚している人に腕時計を返したいなんて 今さら言うとトラブルになりそうですよね。 「ほんなら思い出と一緒に大事にしとき」 さっと手首に腕時計を巻き付けました。 「ゆるゆるやな(笑)」 お守り効かんくてごめんやで、の一言は 私の耳には届きませんでした。 代わりにぎゅっと抱きしめられて 「ずっとこうしたかった」 と耳元で言われました。 いつも勝手に抱きついてくるくせに 変なの。 そういえば 西川さんは私にくれたピッタリの腕時計を 「高三の時にお母さんに頼んで買ってもらった」 と言っていましたよね。 「どうしてこの腕時計にしたんですか?」 「それ合格の花開くってキャッチコピーやねん」 そんなこと書いてたっけ? 「それだけ?」 「だから受かったやろ」 「何それ嫌味ですか?」 「聞いてきたんはマミヤちゃんやろ(笑)」 もうすぐ桜が咲きます。 ゆるゆるの腕時計は壊れた時計と一緒に 時を止めたままクローゼットに 戻しておきました。 西川さんから貰った腕時計は いつもと同じように 帰宅後すぐにボックスに 大事に仕舞います。 日付が変わる前に花が閉じて 明け方にゆっくり花が開きます。 恋の種に光が届く日を 私はまだ知りません。
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