ササヤカな花

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挑んだ受験日当日。 早めに家を出たつもりが 腕時計を忘れたことに気が付いて 駅から走って戻った。 机に置き忘れた時計を 盗むようにバッグに入れて 再び走りだす。 電車の中でもソワソワしながら 大学の最寄り駅に着いた。 駅から試験会場までは徒歩二十分。 まだ余裕で間に合う。 最後の曲がり角を曲がった時 バッグから腕時計を取り出して 腕に乗せた。 あれっ?! 花が閉じてる。 時計が止まってる?! 手に持って見ると 完全に秒針が止まっている。 心臓がバクバク鳴り始めた。 ど、どうしよう。 会場にも時計はあるはずだけど ちゃんと見えるかな?! ネジを巻いたら動く……わけない。 ボタンをカチカチしても駄目。 軽くパニックになりながら 大学の正門をくぐって 道の真ん中を早足で会場へと向かう。 後ろから タッタッタッタッ……と走る足音が 近付いて来ている。 避けようとした時 突然の風が吹いて 長い髪が顔にまとわりつく。 振り払おうとした手から 腕時計が滑り落ちた。 「あっ」と立ち止まった瞬間。 トンっ! 走ってきた男の子がぶつかった。 「ぉわっ、ごめんっ!」 転びそうになって 咄嗟に彼の腕につかまる。 「ごっ、ごめんなさい!」 突き放すように慌てて体を離すと パキッ! 彼の下から嫌な音がした。
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