ササヤカな花

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そろりと彼が右足を上げた。 文字盤のガラスに ヒビの入った腕時計が 横たわっている。 「「あっっ!」」 声が被った。 しゃがみ込んだ彼が 腕時計を手の平に乗せて 何やら確認している。 「ごめん。壊してもうた……」 関西弁? 思った瞬間に 上目遣いに見上げられて ドキリとした。 光にシルバーメッシュが輝く茶色い髪。 サラリと揺れる長い前髪。 白い肌に透き通る茶色い瞳。 まるで王子様みたい。 立ち上がった彼が 「ほんまにごめんな?」 と私の顔を覗き込んだ。 長いまつ毛と整った鼻筋。 綺麗な顔ーーー。 「また弁償はするけど、今時計ないと困るやんな」 そして何だか良い匂いがする。 「聞いてる(笑)?」 笑った顔にハートが射抜かれた。 「えっ、あっ、聞いてます」 「とりあえず俺の時計使って」 「へっ?」 自分の腕時計を外して 私の手首に巻き付けた。 「ゆるゆるやな(笑)。ごめんやで」 「えっ? あ、大丈夫なので……」 返します、と言う間もなく 彼がもう一度かがんで 辺りをキョロキョロと見回した。 そして 私のバッグから取れたお守りを 拾い上げた。 「これも自分のやろ?」 「え?」 自分って私のこと? 「違うん?」 「あ、そうです。私のです」 「お守りまで……。俺ら縁起悪いな(笑)」 「今それ言わないでもらえますか(笑)」 釣られて笑ってしまった。 焦りで鳴っていたドキドキが トキメキに変わる。 もう一度、強く風が吹いた。
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