ササヤカな花

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大学の入学式用にスーツを買ってもらい 壊れた腕時計は修理に出した。 ガラスに入ったヒビは直ったけれど カレンダーの窓の花は閉じたまま。 秒針も上手く動かない。 中を分解して修理するには 購入した以上の費用が掛かるからと 父は新しい時計を買ってくれた。 初めてのスーツにパンプス。 スーツに合う腕時計。 第二志望とはいえ入学式が待ち遠しい。 鏡に写るスーツ姿を見て はっと気が付いた。 彼が受かっていれば 入学式で見つけられるはず。 急いで第一志望だった大学の入学式の 日程を調べた。 私の大学より数日早い。 行ける。 四月一日。 真新しいスーツに身を包み 受験した時と同じ電車に乗る。 駅に着くと 似たようなスーツを着た人たちが 親と並んで歩いていた。 すり抜けて足早に大学へ向かう。 正門に着いたところで 警備員とは反対側の門柱に立って 入って来る親子や学生を つぶさに観察した。 彼らしき人は見当たらない。 もしかして 私より早く来てたかもしれない。 彼の腕時計とお守りを握りしめる。 式が終わるまで待って 今度は講堂の出口で見張ってみたけれど やはり彼の姿はなかった。 写真を撮る親子。 サークルの勧誘。 既に友達と話している人。 人が殆どいなくなるまで 探し回ったけれど 結局は見つけられなかった。 靴ずれして痛む足を引きずりながら 彼と走った道を一人で歩く。 桜吹雪が舞う。 長い髪に花びらが一枚絡まる。 “ 花びらついてるで ” 言ってくれる人はいないのに。 ほんの数分話しただけだよ。 桜のように儚い一目惚れは 恋と呼べるようなものではないけど 失恋した時よりも胸が痛かった。
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