ササヤカな花

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あの時、私が名乗っていれば。 あの時、私が番号を渡していれば。 あの時、私が昼休みに探しに行ってれば。 後悔だけが募る。 きっと、名乗っても探してくれるわけない。 きっと、電話してくれるわけない。 彼だって昼休みに私の所には来なかった。 あんな王子様みたいな人 彼女がいるに決まってるし ドラマみたいな展開なんて 起こるはずない。 わかっているのに あの笑顔に魔法に掛けられた。 二人並んで歩くキャンパスライフを 図々しくも思い描いてしまった。 リビングのソファーに腰掛けて 靴ずれした足を手当てしながら 現実なんてこんなものだと ため息をつく。 その時。 携帯が鳴った。 ドキリとする。 それは 高校の友達からだった。 彼なはずないよ。 バカだな、私。 「はい」 「マミヤ、おめでとう!」 「えっ、何?」 「第一志望、受かったんだね」 「落ちたって言ったじゃん」 「補欠合格したの?」 「してないよ?」 友達の言ってる意味がわからない。 不合格通知が届いた日に すぐに駄目だったと報告していた。 「でも、さっきニュースで見たよ」 「何を?」 「マミヤが大学の入学式に出てるとこ」 「えっ?」 「あ、ほら。テレビ見てよ」 夕方のニュースが流れていた。 「本日大学の入学式が開催されました」 アナウンサーが新入生にマイクを向けている。 「ご入学おめでとうございます!」 「ありがとうございます」 「大学ではどんなことをしたいですか?」 「ええっと……」 その後ろを通りすぎる私の姿が バッチリ映り込んでいる。 短いニュースだけど 私を知っている人には私だとわかる。 「いやっ、ち、違うの、これは……」 「マミヤだよね?」 「私だけど、私じゃないの……」 恥ずかしい! 全国ネットで受かってもない大学の ニュースに出ている。 黒歴史となった小さな恋の種は 使い古した参考書と二つの腕時計と一緒に クローゼットの奧へと封印した。
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