序章

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吹き抜ける冷たい風の音を聞いている。 漆黒の世界に一人佇み(たたず)、目を閉じて祈る女。 茫洋(ぼうよう)と煙る深い闇に包まれ、その姿はよく見えない。 ???「聞こえますか?」 誰に呼びかけているのだろうか、悲しみに満ちた声が、死に絶えた世界に虚しく響き渡る。 ???「私の声が、聞こえますか?」 答えることはできない。昼と夜、生と死を分かつ宇宙の摂理が、それを阻んでいる ???「答えてください、私の声が、聞こえますか?」 女の声が遠ざかっていく……。 ???「……様……」 意識の途切れるその瞬間、女は誰かの名を呼んだ。 それはひどく懐かしい……聞きなれた名前のような気がした。
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