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「あーー…少し飲みすぎたか…」
女華宮からの帰り道。
新入りの嬪娥「玲姫」のお手付きを、庵理に譲ることになったのがどうも癪に障り、夕べ共寝をした嬪娥の部屋で更に酒を飲んだからだ。
少々「運動」したくらいでは酒は抜けないらしい。
渡り廊下を抜け、中央庭園の前に差し掛かったとき、ちょうど橙雲宮の方から昨日の最優秀選手が登場した。
「…ひっどい顔色じゃのう、絽真」
「いやはや、深酒がすぎたようだ」
すがすがしい顔をした庵理の存在が眩しく思える。嫌味が過ぎるほどに。
「夕べは万事上手くいったのか、庵理」
「ほうじゃな…おんしゃよりはようできたはずじゃ」
「そうだな……俺は美人の隣で黙って寝ることなどできぬ」
「そりゃあわしだって同じじゃあ」
庵理の言葉に含まれた意味に、一瞬眉根を寄せる。
「おぬし、事前の話と違うのではないか?」
「事情が変わったんじゃ」
「ほう、理性が負けたということか」
「……」
庵理は何か言いたげだったが、それ以上話に乗ってくることはなかった。
「お大事にの、絽真。酒もオンナもほどほどにせえよ」
つまり、だ。
庵理はあの時点で手を付けるつもりはなかったが、いざ本人を目の前にしたら抑えがきかなかったということ。
これはますます面白い。
剛山と並んで女っ気のない庵理が、嬪を差し置いてまで欲した女か。
確かに、顔立ちや体つきは他のおなごと違った雰囲気だったが。
(もし、庵理が本気になったとしたら)
……狩りのし甲斐があるというものよ。
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