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「久々に弓を握ったのなら、少し痛かろう」
「…おっしゃる通りです。絽真様にはお見通しでしたね」
赤くなった左腕。すっと指で撫でられる。痛みはなかった。
そのまま掌に触れられ、優しく握られる。
「おなごにしてはしっかりとした手であるな。武具を持つ手だ」
「……っ…」
「玲姫よ、おぬしはなぜ狩りをする?」
握られた手から、絽真様のぬくもりが伝わってきた。
「……生かされていることを、知るためです」
「ほう?」
好奇の目が、次の言葉を待ち望むようにのぞき込んでくる。
「……最初は、血を流すウサギや鳥に触れるのも恐ろしかったのですが、命をいただくことで自分が生かされていることを知り、自分の命に責任と重さを感じるようになったのです」
「なるほど」
「僧侶の身であった絽真様の前で命について語るなどおこがましいとは存じますが、人は生きているだけで自分以外の何かの命の上に立っています。そこに必要なのは、罪の意識ではなく感謝の思いだと……あっ…!」
真面目に話していたのに、絽真様はいたずらな目をして身をよじり、素早く私の体を抱きこんだ。もつれて、そのまま褥に寝そべる。すぐ目の前には横たわりながら頬杖をつく絽真様の笑顔があり、心臓が跳ねあがった。
「おぬし、本当に愉快なおなごだな」
「え……」
「……気に入った、と申しているのだ。面白い。もっとおぬしのことを知りたくなった」
「っ……ぁ…」
絽真様の指先が私の髪をすくって、その一束にそっと口づける。
切れ長の瞳が意味ありげに細められ、口角がわずかに上がった。次の動きが、全く読めない。
「俺は、聡いおなごは好きだ。従順で無難なおなごよりも、意外なことを申すおなごが好きでたまらぬ」
「それは……」
「例えば、王家の姫なのに武芸に優れ、狩りをたしなみ、命について思慮を深めているおなごなどがいれば……手にしたくてたまらなくなる。そして……」
「ぁっ……」
急に抱き寄せられ、耳元に唇が寄せられる。息遣いがはっきりと感じられ、心臓が爆ぜそうになった。
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