玲姫、入宮。

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劉国の第二王女「玲姫」入宮の朝、4人の継承者は中央宮に集められた。 事前に皇帝陛下から知らせは受けていたが、改めて言葉があるのだろう。 一番最初に部屋に姿を現したのは剛山。いつでもそうだ。元武官ゆえのことだろう。 「おお、剛山!相変わらず早いのぅ!」 「庵理殿。おはようございます」 「またおなごが来るっちゅうんで大騒ぎじゃなぁ。嬪(ひん)が騒ぎゆう。おんしのところの嬪は何か言っちょったか?」 「ああ、いや…自分はまだ、今朝は嬪に会っておらぬゆえ…」 「おぬしら、もっとおなごをかわいがらぬと寝首をかかれてしまうぞ?」 二人の後ろから声をかけてきたのは、第3継承者の絽真だ。 「そういうおんしゃは今日も『女華宮からの朝帰り』かのう?」 「ああ、女華宮のおなごたちはかわいいからな。毎夜共にしても飽きぬわ」 「じゃあさっさと嬪なり側室なり召し上げてやりゃええのに」 「おぬしは分かっておらんな、庵理よ。みなを平等にかわいがるのが良いのだ」 「……さすが、女華宮でも人気のお二人は言うことが違いますな」 「おや、盛り上がっておりますね」 最後にやってきたのは第1継承者の獅子丸だった。いつも通り、優雅な所作で座する。 「獅子丸はもうべっぴんの嫁さんがおるがよき、今日の話は関係なかろうて」 「確かに、私にはもう黄妃(こうひ)がおりますので、王族のご息女とあらば正室のいないお三方に関係のあるお話であることは明白でしょう」 「…と申しておきながら、隙あらば手を付ける気が満々のように見えるのは俺だけか?」 「人が悪いのう、絽真よ」 獅子丸は感情の読めぬ薄ら笑いを浮かべる。 「皆の者、陛下がお見えになる」 いち早い剛山の言葉で皆は一様に口を噤み最敬礼の姿勢を見せた。 程なくして重々しい衣擦れの音と共に皇帝陛下が入第する。4人の前を通り過ぎ、奥の椅子に腰かけると、面を上げよという声がした。 「皆、既に知っているであろうが本日、劉国より第2王女・玲姫が入宮する。既に黄妃と女華宮長には今宵の宴を取り仕切るよう伝えてある」 「御意」 「玲姫は属国とはいえ王族の血を引く。正室の居らぬ三方は将来のことも踏まえて今宵の宴に参ぜよ」 「はっ」 陛下は白髪混じりの髭を何度か撫でた後、ため息を滲ませた。 「特に絽真、嬪も迎えておらぬのはお主だけだぞ」 「ははは、陛下ご安心を。ここにいる庵理も、嬪は迎えているが平民出身のおなご。条件としては我と同じでございます」 「それは安心とは言わぬわ……。剛山とて同じぞ」 「じ、自分でありますか?しかし、自分の嬪は貴族出身ゆえいずれは正室になることも可能かと……」 「剛山よ、おなごは抱かねば子は成せぬぞ?」 「りょ、絽真殿!!陛下の御前ですぞ!!」 陛下は頭を抱え再びため息をつく。 「絽真よ、いくら手をつけても召し上げなければ跡継ぎにはできぬぞ」 これには獅子丸もクスクスと笑った。 「陛下、跡継ぎに関しては今のところ誰のところにも授かっておらぬ。そこでクスクスと笑っておる獅子丸の正室、黄妃とて同じこと。ということは、まだまだこれからと言えようぞ?」 「そうであったな。とにかく、正室も迎えておらぬお前を含めた3人は、玲姫を丁重にもてなし然るべき行いをもって対処するように」 然るべき行い、に含みがもたらされる。 その意味を分からぬ者は誰一人いなかった。 「では、謁見の間へ参ろう」 再び4人は頭を下げる。皇帝陛下の衣擦れの音が去り、皆はそれぞれの思いを胸に秘めながら序列順に移動し始めるのだった。
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