玲姫、入宮。

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遡ること数時間前。 継承者4人は、極秘で白黄宮(獅子丸の居城)に集まった。 4人が集まった茶室に姿を現したのは、黄妃だった。 「継承者の皆様、ご機嫌麗しゅう」 「黄妃、おもてを上げよ。先の話を皆へ頼む」 獅子丸の言葉に黄妃は顔を上げ、本題に入った。 「本日、玲姫様の入宮にあたり、お願いしたきことがございます」 「ふむ、聞こうぞ」 「入宮初日にお手付きが無いと、後々女華宮の中で格下に見られてしまいます。必ずどなたかに『お初め様』となっていただきたく思っております」 「それなら我に任されよ!どの道手付けはしたいと思っておった!」 「お待ちください、絽真様」 黄妃には考えがあるようだった。 「絽真様は女華宮内でも嬪娥に人気があります。お初め様が絽真様になってしまわれると、嫉妬や嫌がらせの対象となりかねません。お初め様はご遠慮いただけると幸いです」 「そうか、それは残念であるな」 「陛下のご意向を鑑みると、獅子丸様……あなたも辞めておくべきです」 「分かっておる」 「となると……わしか剛山のどちらかっちゅうことになるの」 庵理は剛山と顔を見合わせて言った。 「それが、玲姫様が今後、女華宮でお暮らしになる上で最もよき選択になるかと思います」 「……庵理殿、いかがされますか」 「ほうじゃな、剛山、おんしゃが行かんならわしが行こうかの」 「確かに、我の次に正室候補を欲するのはおぬしだからな。正当性がある」 絽真の言葉に頷いた庵理は、黄妃に向かって尋ねた。 「要は、『手付きがあった』と周りのもんが認めればええんじゃろ?」 その言葉の真意を理解した黄妃は深く頷いたのだった。 **** 女華宮に住まう嬪娥は、居室と寝室の他に、殿方を迎える部屋が用意されている。 位の低い女人は居室と寝室のみが与えられ、閨は別の部屋……それは共用となっている。 自分の寝室ではなく、その隣の閨事の間を先に使うことになるとは。 絹の刺繍が施された真っ白な寝巻、結び目が前になった絹の帯。頼りなく緩めに結ばれており、あまり動くと取れてしまいそうだ。 湯浴みを済ませ、結い上げていた長い黒髪を丁寧に梳いてひとつに束ねている。 庵理様は「何もしない」と仰っていたのに、慣例とはいえやる気満々な格好の自分が恥ずかしく思えた。 美しい装飾がなされた朱塗りの天蓋に、大きな寝具。ふかふかの布団や沢山の枕。今まで見たことがない光景だ。 それを見ると急にそわそわしてしまって……手に汗がにじむ。 (だめだ……やっぱり怖い!) ほどなくして人の気配がした。 「よぉ、待たせたの!」 御簾(みす)が上げられ、慌てて頭を下げようとすると「ほがなことせんでええ、楽にせい」と言われた。 「わしもおまんも、同じ人間じゃ。それに、わしは元々民間の貿易商じゃ、身分はおまんより低いんじゃ」 すごくリラックスした様子で、寝所のふかふかな布団にどすんと座る。 「なんじゃあ、ふっかふかじゃのお!こじゃんと柔らかい寝床じゃあ、わしは1分で寝るきに!」 「あ、あの……」 「おまんの嫌がることはなにもせん。そんなところで座ってたら足が痛なるから、隣に来とうせ」 その南方訛りを聞いていると、だんだんと緊張が解けてくる。何より、庵理様の指示なので、私は彼の隣に座った。 確かに、想像以上にふかふかだ。 「ふかふかじゃろ?」 「は……はい」 「せっかくおまんと朝まで興でもして遊ぼうかと思うちょったが、嬪娥の寝所は持ち込み禁止じゃと言われてしもうた。丸腰じゃと、旅の話か歌うくらいしかできんのじゃがの」 少し困ったように頭を搔いて笑う庵理様からは、何の思惑も感じられなかった。 むしろ、私の緊張を解こうとしてくださっている。 そんな庵理様の思いに、応えたい。 「それでは……」
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