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射場にて
「う……」
地味に、痛い。
身体には自信があったが、普段使っていない場所を使ったせいか、あちこち筋肉痛になっている。
それは、ゆうべ。
生まれて初めて……殿方に抱かれたからだ。
『玲姫……玲姫…ッ』
あんな風に名前を呼ばれて抱かれるのが、こんなにも切なくなるとは知らなかった。
思い出すだけで、顔が赤くなるのが分かる。
今日は黄妃様にお礼のご挨拶をして、その後は皇宮内の散策がてら位置関係を覚えたり情報収集をするつもりだ。
本当ならば、狩りか射場に出たいところだけど……。
「初日から庵理様のお手付きなんて、流石です玲姫様」
昨日から私の身の回りを世話してくれている女官・茗鈴(めいりん)だ。歳は16で、はつらつとした明るい子だ。ここの情報もいろいろと教えてくれる。
髪を梳き、丁寧に結い上げながら茗鈴は続けた。
「先程、厨(くりや)に参る道すがら耳に挟んだのですが、もう宮内は玲姫様の話題で持ちきりですよ!」
「えっ?!どうして??」
「玲姫様、ここでは、継承者のお手付きになるだけで格が上がるのでございます」
「格?」
茗鈴は嬉しそうだ。
「女華宮の中には、お手付きになっていない方のほうが遥かに多いのです。それは嬪娥の方とて同じこと。ですから、玲姫様は既に、その方たちよりは上なのです!」
「……そうなんだ…」
……後で誰が「お手付き」の方なのか確認しておこう。じゃないと、変な軋轢に巻き込まれそうだ。
「……はい!お仕度終わりましたよ!ではさっそく黄妃様のところへ参りましょう!」
茗鈴が元気はつらつで良かった。これから先の不安も、少しは和らぐ。
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