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航太は、死人リストを、今日の日付が書かれたページまでペラペラとめくっていった。 ───あった。 ぴたり、ページをめくる手を止める。 そのページには、確かに、航太の母の名前が書かれていた。 なぜだか、人違いだ、という気はしなかった。 航太は、自分の鼓動が早くなっていくのを感じた。 呼吸をしようとしたが、喉の根元で空気が詰まってしまい、上手くいかなかった。 車内にアナウンスが入る。 「まもなく〜、畠山、畠山です。」 もうすぐ家の近くの停留所に着くらしい。 死神は、降車ボタンを押して言った。 『そろそろ返してくれるかい?それ』 間違いない。この死神は今から母の命を奪いにいくのだ。 「お前は...俺の母さんを殺しに来たのか」 『母さん...?あ、彼女のことか。』 死神はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。 『ああ...そうだ...すまないな、少年。』 死神はバツが悪そうに言った。 『でも、これは...仕事なんだ。人は...いや、全ての命は決まった時に奪われるんだよ。その...プログラム通りに、世界を裏で回しているのが、私たち、死神だ。』 「そうか...何か......全然分かんないや...」 航太は、未だ実感が湧かない様子で、死神に死人リストを返した。 ガタン、ガタンと揺れながらバスが進んでいく。 その時間は、永遠に続くように感じた。 ついにバスが停まった。 航太は、電子決済をして、バスを降りるとそのまま駆けだした。 こんな時なのに空はどこまでも青く、澄き通っていた。 ───俺が今急いで、死神より早く着いたとして、一体何が出来るんだろう。 きっと母さんが死ぬことは止められない。 一体、それでも何を伝えようというのだろう。 航太は、突然足もとにぽっかりと空いた、“死”という名の穴を覗き込み、そのあまりの深さに何も考えられなくなるような気がした。 小さく見える自宅に向かってひた走る航太の脳裏では、色とりどりの、温もりを感じる思い出が次々とすれ違っていった。 航太は、込み上げてくる熱い何かと、味わいきれない、“死”というあまりにも大きな物の間で、ゆらゆらと揺れていた。
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