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目を覚ますと心地のよい怠さが体に残っていた。
昨晩は2回ひとつになった後、トキにぎゅっと抱きしめられて眠った。過去の恋愛で濁ってしまった自分が透明感を取り戻していくような幸せ過ぎた夜だった。自分でも信じられないほど乱れてしまったことを思い出して恥ずかしくなる。
すぐに隣を見たが、そこに彼はいなかった。気配すら残っていない。窓際のソファにもいなかった。部屋を見回すと、日光を避ける為か窓から離れたところにドレッサーの椅子を移動させ、そこに座って本を読んでいた。きちんと洋服に着替えている。
布団で体を隠して起き上がるが、こちらには気づかないようだ。
「おはよう。」
声をかけると本から少し顔を上げた。
「おはよ。」
仕事中のような淡々とした声が返ってきて、昨晩の甘い時間は夢だったのかと思ってしまったけれど、私は服を着ていないし、胸元に彼が触れた痕跡が残っている。
「あ、あの、何の本読んでるの?」
早くも本に目線を戻そうとする彼を阻止するかのように話しかける。
「次の仕事の為の資料。」
「そっか・・・。」
進めている翻訳も終盤だ。この仕事が終わったら私達は元の、別々の生活に戻る。そう思うと胸が苦しかった。
気持ちを伝えないと、と思ったけれど今の彼の塩対応と昨晩のことを改めて思い出すとその気持ちがしおれてしまいそうだった。
ベッドの上で彼は私のことを『可愛い』と何度も言ってくれたけれど『好き』とは言ってくれなかった。つまりああいう行為をする相手としては認めてもらえたけれど、それ以上ではない、ということではないだろうか。
「そろそろ朝飯だからシャワー浴びた方がいい。」
トキの言葉が思考を遮る。途端に今の自分の姿が恥ずかしくなってきて、下着に手を伸ばした。
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