ラーメン探偵 河野真一

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私は朝の地下鉄で見かける女性に恋をしていた。 栗色のロングヘアー、大きな瞳、形の良い唇、スカートから伸びる細い足。 彼女を知りたい、声が聴きたい、話をしたい。彼女に声をかける勇気があればよいのだが、臆病な私にはとても無理だ。 私は馴染みのバーのマスターに恋の悩みを打ち明けた。 マスターはそれなら探偵を紹介しましょうと言った。 探偵に彼女の勤め先やよく行くお店などを調べてもらい、どこかで偶然を装って近づく作戦を練ればいい。 私は店長の提案にのることにした。 翌日、私のアパートに一人の男が訪れた。 やや太った男は頭に手ぬぐいを巻き、竹楼軒と書かれたTシャツを着て、脂で汚れた前掛けをしている。 どこからどうみてもラーメン屋だ。 男はどうもと一礼すると名刺を差し出した。 名刺には「探偵 河野真一」の文字と電話番号が書かれていた。 とまどっている私に探偵と名乗るラーメン屋は仕事内容を聞いてきた。 「その前に、本当に探偵なんですか」 「道楽でこんな格好していないよ」 なるほど。そうか、これは変装か。 これはラーメン屋の出前を装った探偵の変装なのだろう。
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